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沖縄女性弁護士の奮闘日誌

 
大阪地裁で,JR西日本の運転士ら258名が懲罰的な「日勤教育」により精神的苦痛を受けたとして損害賠償を求めていた訴訟事件に関して,原告61名に1人5万~30万円,総額620万円の賠償を命じる判決が出されたとの報道が出ていました。

この判決の詳細な内容はまだ入手していないので,事件の内容や判決の是非についての講評は致しかねますが,単純に,原告1人当たりに認められた慰謝料の金額だけを見ると,弁護士の私としては「あぁ,やっぱりこんなものなのかな・・・。」と思ってしまうし,一市民(職務を離れた個人)としての私からすれば「こんなに低いの?」と思ってしまうのが本音です。

以前,「請求の根拠が慰謝料だけの事件は難しい。そもそも金額の算定が困難であるし,精神的損害に対する慰謝料だけで高額の賠償を認めた判例は少ない。」という記事を書きました。
実際,現実に金銭の移動がある財産的な損害に比べて,精神的損害は,第三者の目から見てそれを確認できる明確な基準がないので算定が困難であり,金銭的に評価することが難しいものです。
そのため,上記記事を書いた時に私が悩んでいた事案でも,請求を起こす段階では慰謝料以外の項目をつけて金額を上げていたのですが,最終的には,和解により,当初の請求金額よりだいぶ賠償金額を落として解決しました。

通常の金銭請求の事件の場合,請求の根拠となる事実をすべて立証することができれば金額は自ずと定まってくるのに対して,
慰謝料請求の事件では,そもそも,どのような場合に精神的損害に対する慰謝料が発生するのか,その要件自体が法律上不明確であることに加えて,
その発生要件を立証できたとしても,最終的に判決で認められる金額がいくらであるのかは,事前に予測することが困難です。
そのため,最終的には,判決まで進んだ場合のメリット・デメリットとリスクの説明をして,ご本人に判断していただくことになるのですが・・・。

弁護士個人として,「これは確実に判決で慰謝料が認められる。」と確信した事件に遭遇した場合,もし判決まで至れば慰謝料の金額はいくらになるのか?というのは,気になるところではあります。
しかし,実際に判決に至るまでの依頼者ご本人の負担を考えると,なかなか判決までには至らず,当初の請求金額を落としてでも,示談や和解で妥協するケースも多いと思います。
この点の判断は,本当に微妙で,大変悩ましいところではありますが・・・。
もちろん,相手方の提案金額が過去の類似事案の裁判例に照らして低すぎる場合は別ですが,それが微妙な場合,特に相談当初からご本人の精神的な苦しみを繰り返し聞いていればいるほど,最終的に判決手続きまで進んだ場合のご本人の負担やリスクを考えると,どちらが良いのか,非常に悩みます。

最終的には,ご本人(依頼者)の判断ですが。
こんな時,本当に,「法律は万能ではないなぁ。」って思ってしまいます。
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 相手の行為や言動等により精神的な損害を受けた場合,精神的損害を「慰謝料」として請求する場面があります。
 民法710条は「他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない。」として,不法行為の場合には財産以外の損害-つまり,精神的損害についても賠償しなければならないことを定めています。

 しかし,この慰謝料については悩ましい問題が多々あります。

 まず,相手の行為や言動等に慰謝料請求の根拠となる「違法性」があるか否かが問題になります。
 急に「違法性」というと,ちょっと言葉尻がきついかもしれませんが,不法行為等の場合に相手に慰謝料を請求できるのは,相手が故意又は過失により保護されるべき法的利益を侵害したこと-言い換えれば,相手の行為等に「違法性」があることが必要です。
 そのため,典型的に慰謝料の発生が認められている場面-たとえば自動車事故等の場合の入通院慰謝料・後遺障害慰謝料や,配偶者の不貞行為等-の場面を除いては,相談者の主張する相手の行為が慰謝料請求の根拠となりうる「違法性」があるか否かを慎重に判断しなければなりません。
 たとえば,夫婦間で相手に不貞行為があった場合は,貞操義務(民法710条1項1号参照)の違反を慰謝料請求の根拠とすることができますが,それ以外の理由により離婚のやむなきに至った場合-価値観の相違やDVに至らない暴言等-の場合には,たとえ相談者が相手の言動等によりどんなに傷ついたとしても,それが慰謝料請求の根拠となりうる違法な行為なのか?という点が問題になります。

 また,相手方の行為等に違法性があり慰謝料請求が可能な場合でも,次に,その場合の慰謝料の額が問題になります。
 慰謝料も損害賠償の一類型である以上,判決等で認められる慰謝料の額は相手方の不法行為と「相当因果関係」のある範囲に限られます。
 また,そもそも精神的損害は金銭に見積もること自体困難です。そのため,入通院慰謝料・後遺障害慰謝料等のように統計的な基準があるものを除いては,具体的な慰謝料金額の算定は実務的に非常に悩ましい問題です。
 しかも,判例等を検索していると余程悪質な事案でない限り慰謝料請求だけで高額の請求を認めている事例は少なく,慰謝料請求だけでは,なかなか相談者の方が納得できる水準の賠償は得られないのが現実です。
 そのため,通常は,慰謝料以外の請求(逸失利益等)と併せて請求を立てることが多いですが,どうしても慰謝料請求だけを単独で行わざるを得ない場合は非常に悩みます。

 現在,慰謝料請求に関して悩ましい事案があり,関連する判例や専門書の検索に追われています。